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最新のYouTubeやFacebookでは360度動画を再生することが可能になった。結果、動画再生中にスマートフォンを上下左右に動かすか、パソコン画面上で再生している動画を上下左右にスクロールすることで、視聴者は動画の世界に没入して周囲を自由に見渡すことができる。そんな新しい動画体験が広がりを見せる中、ノルウェーを拠点にするPutty StudiosのPeter Spence氏が、360度アニメーション動画「Do NOT Push The Red Button」を制作した。作品は、ルーブ・ゴールドバーグマシンをアニメーション化した4Kの高解像度動画となっており、視聴者側の視点が固定されているこれまでのアニメーションとは全く違う感覚を味わえる。Animationweek編集部は、360度アニメーションという新しいコンテンツ制作における技術的な挑戦や制作過程で配慮した点などを制作者のPeter Spence氏に取材した。

PuttyStudios2014

Information
Putty Studios
住所:Vardeveien 1A, 1444 Drøbak, Norway
創設者:Peter Spence
ホームページ:http://puttystudios.com

1. 制作プロセス

Peter Spence氏によると、制作工程は、通常の3DCG作品とほぼ同じだったという。3ds Maxで全動画を制作し、物理シミュレーションはMassFxで行った。プラグインのRedshift 3Dを使用してレンダリング、撮影はAfter EffectsとプラグインのMettle社のSkyboxを利用した。

大まかな制作の流れ

1. Procreate: キャラクターのコンセプトデザイン

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2. Sculptris: 3Dモデルの制作

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3. 3ds Max: MassFxでアニメーションのシミュレーションテスト

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4. シーンの制作

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5. CATツールでキャラクターにスケルトン・リグ (骨組み) を埋め込む

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6. ジョイスティックでモーション-キャプチャーできるようにリグの設定を行う

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7. キャラクターにアニメーションを付けてシミュレーションを行う

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8. Redshift 3D: レンダリング作業

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9. Audition: 音楽と音響効果の制作と設定

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10. After Effects: 撮影工程 (全制作物の統合作業)

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11. Mettle Skybox: キューブマップから360度動画を作成

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メイキング動画

2. 通常のCGIアニメーションとの制作工程の違い

Spence氏によると、通常のCGIアニメーションと360度アニメーションでの制作工程の違いは、「通常の映像制作にて用いている多くの“作業の簡略化”が使えない 」ことだ 。例えば、通常は撮影時にカメラのフレームの外側になるエリアに関しては、キャラクターにアニメーションを付けることも、背景を制作することもしないが、360度アニメーションでは、視聴者が視点を変えて自由に360度見渡せるので、作品の世界の全背景を制作し、全てにアニメーションを付けなければならない。

3. 技術的な挑戦

技術的な挑戦について、Spence氏は、「球体にレンダリングされたアニメーションの制作に、信じられない量のフレーム数が必要で非常に困難だった」ことを挙げた。確かに必要とされたフレーム数を聞くと、どれだけ大変だったかが分かる。Spence氏によれば、「4Kアニメーションとして映像化するには、キュービックマップで6面をレンダリングしなければならいことになります (Figure1 and 2)。これは、6つの角度からそれぞれに2,100フレームのレンダリングが必要で、キャラクターはキャラクターで別に、それぞれの見える視点からレンダリングが必要となります。結果的に19,000ものレンダリング数になりました」という。「現在、世に出ている360度動画の中には、解像度が低いものやレンダリングが上手くできていないものが多く含まれるので、これはまだ多くのクリエイターにとって簡単には解決できないハードルなのではないか」とSpence氏。今回、Spence氏は、Redshift 3D (https://www.redshift3d.com/) を使うことで、映像的に素晴らしい結果を得られただけではなく、非常に速くレンダリング処理をすることができ、この技術的チャレンジを解決できたそうだ (Figure3)。

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Figure1:キュービックマップで6面をレンダリング (from “https://en.wikipedia.org/wiki/Cube_mapping”)

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Figure 2: キューブマップから360度動画へコンバート

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Figure 3: Redshift3Dを使ってレンダリング

4. ストーリー設定における挑戦

「映画監督というよりも舞台監督に近い思考」

Spence氏は、制作の計画段階で自分でも想定していなかった360度動画と通常のアニメーションの根本的な違いが明らかになったという。360度動画は観客にカメラの視点を明け渡すことになるが、それによって、通常のアニメーションよりも慎重にストーリー展開を計画する必要に迫られたというのだ。

だが一方で、360度動画ならではのストーリー展開を考える挑戦は、通常の動画制作に多く見受けられる制約からSpence氏を解放してくれたという。

「映像監督というよりも、舞台監督のように考えている自分がいました。最近は、技術の進歩で動画編集が簡単になり、ついカメラの動きを多くしてしまいがちですが、今回の360度アニメーションの制作では、そうしたカメラワークの考え方を一度脱ぎ捨てて、首尾一貫した分かりやすいストーリー設定を考えなければなりませんでした。意外にも、これは非常に解放的な経験になりました。例えば、360度動画だとアクションを付け過ぎると、躍動感を与えるはずが、逆に視聴者を混乱させてしまう結果になってしまったのですが、それが私にアクションを付ける“間隔”により集中して、観客の視点を誘導できるような演出をすることを可能にしてくれました」とSpence氏は解説してくれた。

5. 今後の360度動画の展開について

多くの方が既にご存知の通り、リアルタイムレンダリングが必要とされるのは、通常、ゲームなどのインタラクティブなコンテンツである。リアルタイムレンダリングでは、その場で1フレームごとに描き出す必要があり、且つ、ユーザーが見ている視点をもとに、それぞれのフレームがレンダリングされる。滑らかな動きにするには、1秒あたり最低でも30フレームは必要で、バーチャルリアリティのコンテンツの場合は、さらに多くのフレームが必要となる (引用文献参照)。そのため、リアルタイムレンダリングを自然に行うには、非常に高いスペックのコンピュータが求められる。

一方で、一般的なCGIアニメーションは、1つのフレームが非常に複雑で、レンダリングするのに数時間かかることさえあるが、視聴者は再生機器に関係無くCGIアニメーションを問題なく滑らかに再生・鑑賞することができる。それは、事前にレンダリング(プリレンダリング)されて静止画として保存されたものを動画として合成しているからである。そのため、動画が滑らかに見られる理想的なフレームレートで再生が可能なのだ。そして、Putty Studiosが制作した360度動画もプリレンダリングされているので、私達が一般的に利用しているタブレットやスマートフォンでも楽しむことが出来る。Spence氏は、このプリレンダリングされた360動画を、将来的にさらに楽しめるように改善していくことを考えた際に、2通りの方向性が考えられるという。

1. 立体映像による再生

1つ目の方法として考えられるのは、立体映像による再生だ。ただ、この方法は技術的に複雑で実現させるのは難しいのではないかとSpence氏は考えている。パノラマ映像以外の映像の場合、2つ以上のカメラが隣接していなければならないからだ。解決策としては、リアルタイムにレンダリングされるローポリジオメトリの映像にプリレンダリングされた映像をプロジェクションマッピングする方法が考えられるそうだ。

2. 動画自体がよりインタラクティブに

現在、 一方向性でしか動画を再生することができない。この制約があると、360度アニメーションの視聴では、 ストーリーが展開する重要なポイントを視聴者が見逃してしまった際に、話の筋を追えなくなる問題が生じる。今後、さらに複雑なストーリー展開を可能にするには、視聴者が画面を左右上下に見渡す自由を奪わずに、動画を再生する機器が視聴者の見ている方向を感知し、視聴者の視界の中でストーリー展開に関係する場面をリプレイすることが出来れば理想的だというのがSpence氏の考えだ。

6. 360度動画のポテンシャルについて

360度動画は可能性に満ちているとSpence氏はいう。「 他のクリエイターの人達がどのようにこの新しい表現方法を使ってストーリーを見せてくれるのかとても楽しみです。360度動画にてアニメーションを制作するということは、ただ単にアクションの中心にカメラを置けば良いという話ではなく、様々なことを考えさせてくれる楽しくて興味深い挑戦です。私には、本作には使わなかったアイデアが他にも沢山あるので、今後とも私の360度アニメーションへの挑戦に注目してもらえれば幸いです。」


引用文献

Lang, B (2014) DreamWorks Reveals Glimpse of 360 Degree ‘Super Cinema’ Rendering for VR Films. 20 November 2014. Road To VR.[Online] Available from:<http://www.roadtovr.com/dreamworks-reveals-video-360-degree-virtual-reality-super-cinema-format/>. [20 November 2015].

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