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『ポケットモンスター』制作の裏側:

2Dデジタル制作への情熱と徹底的なこだわり

【第1回】

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株式会社オー・エル・エム (OLM) は、世界で大人気の『ポケットモンスター』や世界展開が始まった『妖怪ウォッチ』のテレビシリーズ・映画のアニメーション制作を一手に担うスタジオだ。そのOLMが、Toon Boomを導入してフルデジタル2Dアニメーションの制作に先行的に取り組み始めたのが2015年1月。その後、デジタル制作を牽引する社内チームの不断の努力のもと、独自マニュアルの制作を始めとした2Dデジタル制作のノウハウを培ってきた。

日本の2Dアニメーションの制作現場では、紙に原画と動画を描く作画プロセスから、すべてをデジタルで作画するペーパーレスのプロセスへの関心が高まっている。2Dデジタルに制作体制を移行していくことで、海外との共同制作の可能性もより開けてくるだろう。今回、フルデジタルでの2Dアニメーション制作に取り組んでいるOLMの『ポケットモンスター』制作チームに時間を頂き、これまでの取り組み、課題、紙からデジタルに移行する際にこだわったポイント、メリット、今後の展開など多くの貴重なお話を伺った。取材を通して見えてきたことは、視聴者や作品への熱い思い、線一本にもこだわって良い映像を目指す高いプロ意識、そして、社内外における緊密な協力体制だった。

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左から株式会社オー・エル・エム プロデューサー 加藤浩幸氏、株式会社オー・エル・エム・デジタル 研究開発部門 四倉達夫氏、株式会社オー・エル・エム 作画部門 室岡辰一氏と小川智樹氏

デジタル作画への挑戦

Animationweek (AW): 株式会社オー・エル・エムがデジタルでの2Dアニメーション制作に先駆的に取り組むようになった経緯を是非お聞かせ下さい。

Hiroyuki Kato (HK): 新年明けての社内の定例会議があるのですが、2015年の最初の会議で「デジタル作画を始めていきましょう」とToon Boom導入が決定の状態で我々に話が来ました。なので、2D アニメーション制作のソフトウェアには、TVPaintであったり、国内ではCLIP STUDIOであったりと、Toon Boom Harmonyを含めて選択肢があると思いますが、弊社の場合は、Toon Boomに決定というところからのスタートで、ライセンスを含めて、試しに何台か入れてみたという状況でした。

今自分が担当しているのは『ポケットモンスター』なのですが、弊社の場合、『妖怪ウォッチ』など多くの作品の作画をやらせて頂いている中で、各プロデューサーの裁量のもとデジタル作画の導入をするというような話の進め方だったんです。実際に進めていくうえでは、ワークフローやパイプラインのところの手前の段階、「まずは新しい機材を触る」というところから始まりました。紙ベースのクリエーターの人達も、分からないことが多くて当初は混乱しましたね。私は、大混乱の手探りの中で、不安要素にどう対応していくかっていうところを、こちらにいる作画の小川とか動画検査・作画の室岡に、「こうやって進めて行きたいのだけど」って話し合っていったんですが、もう導入してから1カ月ぐらいで、要するに「黒船来たぞ」みたいな状態になってしまいしたね。

Toon Boom Harmonyでのワークフローの確立

AW: どのようにしてToon Boom Harmonyでのワークフローを構築されていかれたのですか。

HK: 実際に2015年5月にToon Boomの方に講師として来日して頂いて、通訳を介して立ち上げメンバーが1つずつ聞いていったのですが、そこも混乱で。欧米と日本とで基本的なアニメーション制作のワークフローが違うので、英語と日本語という言語の問題とは別のところで話が通じなくて (写真1)

Tatsuo Yotsukura (TY): アニメーション用語も全然わからなくて、「原画ってどうやって英語に訳すの」とか。

Shinichi Murooka(SM): 講師の方には1週間滞在して頂いたのですが、そのうちの1日を使って、日本と欧米とのワークフローの擦り合わせというか、まず共通認識を図ろうというところから始めました (図1、2)

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図1: ワークフロー
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図2: 各セクションの作業内容

TY: 私が所属している株式会社オー・エル・エム・デジタルR&D部門が、デジタル作画で使用するPCのサポートやToon Boomのソフトウェアのサポートをしています。Toon Boomが日本語のスタートガイドをはじめとする機能ごとのマニュアルを配布したのですが、百科事典クラスの厚みで、内容もリファレンスマニュアル的なもので直感的とはいえないものでした。そこで、「自分達でマニュアルを作ろう」ということになりました。

HK: オリジナルのマニュアルは索引するのがとても大変なんですよ。

SM: あとは、実際に仕事をしている人が、このマニュアルを読みながら作業をすると、どうしてもすごく時間がかかるので、分かりやすくしたいっていうのがあって

HK: まずこれを読んでようやく基礎が終わるという。でも、実際にはこれでは基礎は理解できないですね。本当にアニメーションの作り方が欧米と日本とで違い過ぎて。で、これが我々の作ったマニュアルです (写真2、3、4)

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AW: 御社のアニメーション制作のワークフローに沿って時系列的になっていて、手元に置いておけば、「今ちょうど自分はこの辺のプロセスだから」って、その項目をすぐに開けるわけですね。絵も多くて分かりやすそうです。

TY: このマニュアルはバージョンアップし続けていて、現在では、ショートカットキー等、かゆいところに手が届くものになっています。このマニュアルが今、代理店のダイキン工業さんのサイトから無料でダウンロードができるようにして頂いています (http://www.comtec.daikin.co.jp/DC/prd/toonboom/tutorial.html)。このマニュアルを通じてToon Boom導入の裾野を広げて欲しいですね。

AW: それは、他の日本のプロダクションさんがToon Boomを導入する際に大変助かりますね。

TY: 近日公開予定のカメラワーク編のマニュアルもあります。今お見せしたのは、あくまで動画と仕上げ作業だけのマニュアルで、やっぱりアニメーションを作るとなると原画を描くわけで、「じゃあ、カメラワークどうするの」ってなりまして。

HK: キーアニメーションの部分の描き方的な、そのハウツー本に近い感じかなと。我々のマニュアル作成作業は、本当に最初のチュートリアルから、次の応用編というところに今進んでいっています。このマニュアルの英語版が出たら逆に欧米で喜ばれるかもしれないですね。日本のアニメーションならではのカメラワークを学べてしまう。

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写真1: 社内講習会

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写真2: OLMで作成したマニュアル

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写真3: OLMで作成したマニュアル

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写真4: OLMで作成したマニュアル

商用アニメーションの制作への導入

TY: それで、少しずつ学習の成果が出てき始めて、「そろそろ実践投入しよう」となりまして。

HK: まずは、短いショートムービーを1本作ってみて、現状のアニメーション工程を置き換えることが可能であることを確認しました。そこで、「じゃあ、次はオンエアレベルの物を作りましょう」ということで、最初にチャレンジしたのがこの作品です。本当に短い映像ですが、まず動画1は線画だけの動画です。それに色を付けたのが動画2で、エフェクトを追加した完成版が動画3です

動画1

動画2

動画3

TY: この映像はすべてversion 11のToon Boom Harmonyで作りましたが、今は最新版のversion12*を使っています。Version12の方がコンポジット周りの機能が追加されていますし、あと、以前よりこちらからの要望をToon Boomに伝えているので、少しずつ日本のプロダクションさんにも使いやすいものになってきていると思います。補足ですが、動画3は最後にAdobe社のAfter Effectsを使っています。

* 2016年8月23日時点での最新版はversion14です。

HK: 従来の紙にアナログ作画して制作する映像のクオリティーまでちゃんと持っていって、エンドユーザーの子供達が見ても、「ああポケモンだね」と言って頂けるレベルのフィルムにするために、この映像を制作した当時はAfter Effectsを使いましたが、version12になって、Toon Boom HarmonyだけでAfter Effectsを使った映像に近しい画面を再現できるようになり、今は、現状の『ポケットモンスター』の映像クオリティーまでToon Boom Harmonyだけでいけます。

AW: 去年の1月にプロジェクトがスタートして、もうここまで来れているのはすごいですね。体制を整えるのが早い。

SM: 2015年の年始に私と小川とでスタートしてから2、3ヶ月後に 1人メンバーが増えて、そこから徐々に3人増えて、その後は倍々でスタッフが増えましたね。人数が少ない頃は「どうなっちゃうんだろう」って不安しかなくて、でも、一緒にやってくれる人が1人、2人と増えて来るとできることも増えていきましたね。

AW: デジタル作画された映像が既に放送されていたりするのですか。

SM: 放送された映像はありますが、ただ、仕事として成立できるものから選んでデジタル制作をしているので、本編まるまるデジタル制作するのではなく、今ご覧頂いたミニコーナーのように短い尺で完結できるものからデジタル作画に移行しています。あとは、どうしてもまだ本編の映像制作を紙で行っているので、原画までの作業は紙で、動画の作画からデジタルでみたいな試みを始めています。

こだわり抜いた線(クリエイターとしてのこだわり)

AW: 実際に今拝見したアニメですと、もう視聴者からすると手描きの鉛筆原画との違いがまったく分からないですよね。ここまでたどり着く過程で、デジタル作画ならではの何かしら苦労された点とか、あとは、この映像レベルに到達する過程で学び得たコツとかはありますか。

SM: 手描きの絵をスキャンすると、ある程度ムラが出るのですが、まあ、時にそれが味になったりもするんですけど、Toon Boom Harmonyのベクター線は、そのままだと完全に機械的でスムーズ過ぎて、綺麗過ぎてしまうんです。それが、こだわりのある手描きのアニメーターには、あまりにも味気ないというか本当に工業製品みたいに感じてしまうっていうのがあったんです。そこで、実際にテレビシリーズの手描きの映像の中にToon Boomで描いた映像を挿入して、違和感があるのかどうか何回もテストをしたうえで、「これで大丈夫だ」という仕上がりにたどり着きました。

HK: 色々な線の太さや、筆圧の有る無しなど、色々なパターンを皆で見比べましたね。まず、テストするにも素材を1つ作ってみてからチャレンジしないといけないですし、同じ素材を5回、6回とこねくり回してテストしたので、たどり着くのに1カ月ぐらいかかりました。

TY: これがアウトラインのテストです(動画4)。6パターンのそれぞれで線の太さが変わっているのが分かりますか? 線にこだわり抜いたこの調整に1カ月かけました。

動画4

SM: まず、最初の段階では1つ絵を作ってから、ベクター線の太さの数字を変えて取りあえず何種類かパターンを作ってみて、「ちょっと線が太いな、細いな」と試行錯誤しました。数字は2、3、4と試して、2だと綺麗過ぎるから細く見えるし、3以上だとちょっと太く見えるので、小数点まで設定しました。あと、筆圧をゼロにして、線の入りと抜きの効果も無しにして、線の数字を変えただけの素材で純粋にその太さを比較できるようにしました。

線の太さの比較をしたあとで、筆圧有りにしてテストをして、「筆圧有りの2.5」に決めました。筆圧無しのものは、鼻の線とかがちょっと一定過ぎるんです。あと、設定すれば線の入りと抜きを太くしたり細くしたりもできます。当初、テレビシリーズだから線の入りと抜きの設定は無しにした方がいいのかなと考えていたのですが、仕上がりが完全にもうただの線になっちゃうので、結局、線の入りと抜きも設定しました。

AW: よく見るとまつ毛とかに違いがありますね。優しい感じがします。

SM: 仕上がりの絵を見たときに細かい部分が「ああ、こういうパーツなんだな」と分かるレベルまで持っていく必要がありました。原画さんが力を入れて描かれたものを、動画のクリーンアップの段階で劣化させる訳にはいきませんからね。

視聴者に違和感を感じさせないようにする

HK: 作品の形にもよると思うんですけども、リミテッドアニメーションで作成している我々のジャパニメーションと、フルアニメーションは違うものなんです。たぶんフルアニメーションで動いているとあまり違和感がないかもしれないですが、リミテッドアニメーションを綺麗過ぎる絵でやってしまうと、パキパキして見えてしまう弊害があるので、筆の入りと抜きも調整して、極力従来の絵を再現できるようにしました。やっぱり手描きの雰囲気が出るように。

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実はセル画に着彩していた時代からデジタルでの着彩に移行して撮影のフィルムがいらなくなった時も同じようなことが起きたんですよ。当時の人達は、セル画時代の柔らかい感じの画面と、コンピュータの画面上で色を塗って撮影したデジタル映像との差を比べた結果、セル画風に近づけたデジタル画像をしばらく模索していました。そして、「あえて紗 (しゃ) を掛ける」っていうんですけれども、最終的な画面にフィルターを掛けてちょっとノイジーな状態にして、セル画風に見せた映像を作っていた時代もあったんです。で、徐々にそのフィルターを薄くしていって、視聴者の目が慣れていくのに合わせてノイズを弱くして、今はもう一切掛かってないんですよ。今も同様に転換期ですし、やはりさっきのAfter Effectのフィルターワークであったりだとか、そういったエンドユーザーに対する配慮は、作る現場側としては意識しています。非常に遠回りで無駄な作業だと思われる人もいると思いますけれども、我々はフィルム作りに対するこだわりを持っていますから。

第2回に続く】

写真:田中 彩

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