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『ポケットモンスター』制作の裏側:

2Dデジタル制作への情熱と徹底的なこだわり

【第2回】

[第1回]

デジタル作画のメリット

ビジネス面

Animationweek (AW): デジタル制作の映像(第1回の動画3)は、従来と同じ絵の雰囲気を再現できているだけでなく、従来の映像よりも画像が精細で絵がすっきりしていますね。

Hiroyuki Kato (HK): 最近の家庭用テレビは大画面が当たり前になってきていますよね。で、実はデジタル制作版は、4K映像とかに引き伸ばして見た時に、綺麗さで従来の映像と圧倒的な差が出るんですよ。これはビジネスの話になりますが、デジタル制作をしていることで、4K版のオファーを頂ける可能性が出てくることは、企業としての強みになるし、この取り組みを進める価値の1つだと思っています。

Shinichi Murooka(SM): 実は、紙での作画では、今までは縦横比が4対3の小さい紙を使用していたのですが、解像度が上がってきたテレビでも綺麗に映る映像を作るために、作画用の紙を大きくしてきているんです。そうなると用紙が大きくなった分だけ絵を描く人間にとって負担が大きくなるんです。 でもデジタル作画であれば、絵を大きく描かなくても、クオリティーを維持しながら解像度をアップさせることができて、高解像度の大画面テレビにも綺麗に映すことができます。これはデジタル制作の大きなメリットですね。

HK: 4K作品には付加価値があると我々は思っていますが、現時点では『ポケットモンスター』の映像はHDサイズです。4K作品としてオファーがあったときに作ればいいと思っていますので。制作に必要なマシンスペックであったりだとか、レンダリングを含め制作にかかる実時間とかもHD作品よりも必要になってくるので、予算に関してはオファーを頂いた時にご相談させて頂くことになるのかなと。

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AW: キャラクターアニメーションをToon Boom Harmonyでベクター線で作画していることで、最終的な映像の解像度に制約が無くなりますが、背景に関しても何か4K出力に対応できる作画をされているのでしょうか?

HK: Adobe社のPhotoshopで背景を作画する際に、高解像度出力に耐え得る大きいサイズに描いて、それをHDサイズに縮小して使っています。ちなみに、背景をどこまで描き込むのかに関しては、実写に近い描写密度が求められているのか、アニメーションとしての省略を求められているのかで違ってきます。キャラクターの絵の線に関しても、今お話しさせて頂いているのは『ポケットモンスター』というプロジェクトに特化した話と受け取って頂ければと。これが違う作品であったら、2.5の線ではなく2のシャープな線の方を求める場合もあれば、4の太い 線が良い場合もあるわけです(第1回の動画4)。作画に関してはケース・バイ・ケースです。

デジタル作画が良い面

AW: キャラクターアニメーションに話が戻りますが、アニメーターとして動きを表現する、キャラクターにアクションをさせる際に、従来の手描きとToon Boom Harmonyを使った作画とでは、何か勝手の違いはありますか。

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Tomoki Ogawa (TO): デジタル作画を始めて思ったのが、楽とまでは言わないですけど、結構、デジタル作画って派手な動きに向いていると思われます。キャラクターが飛び跳ねていたりするような動きは紙よりもToon Boom Harmonyの方がやりやすい。一方で、キャラクターが歩くシーンとか、人の微妙な動きの表現になってくると紙での作画の方がやりやすいかなって思っています。

AW: 紙での作画とデジタル作画のそれぞれに特性があるということでしょうか。

TO: 特性はちょっとあります。線1本で絵の雰囲気が変わってしまうシーンの場合だと、デジタル作画だと意図しているニュアンスと変わってしまうことがあるんですね。ディズニー等のフルアニメーションでは、キャラクターがとても活発に動き続けますが、日本のアニメーションはどちらかというとリミテッドアニメーションですし、日常の静かなお芝居とか結構多かったりするので、そんな微妙な動きの場合は紙の方が表現しやすいです。もちろん慣れたらデジタルでも可能ですが、慣れるまである程度の時間がかかるという問題点はありますね。

SM: 動画のデジタル作画を担当する若いスタッフを集めた時の話ですが、我々は、まず、紙で作画している動画部の若いスタッフに、実際にToon Boom Harmonyに触ってもらって、「じゃあ、デジタルで仕事しますか、それとも紙のままにしますか」って聞いて個々人に選択して貰ったんです。アニメーションを仕事にしようと入社してきた人達なので、例えば、線画だけでなく色も塗れるし絵も動くってわかると、みんなやっぱり楽しむんですよね。「わ、これ動くね」とか、「これ楽しいな」とか、そこはToon Boom Harmonyに限らず、デジタル作画ソフトウェアの良い面だなって思いますね。

これもToon Boom Harmonyに限らないですけど、デジタルだと作画した段階で、その素材の動きをタイムシートのタイミングで確認できるんですよ。紙での作画だとそのタイミングでは確認できなかったので、これは便利になったところですね。ただ、便利な反面「動いて見えたからいいや」となる危険性もあります。その便利さを活かして「よく動きを確認してより良い作画をしよう」となるか、「これぐらい動いているならいいや」となってしまうのか。多分、デジタルに限らず便利なものが出てきた時には、それをどう使っていくのかが大切になると思います。便利さには良い面と悪い面があるので、そこに関してはクリエーターに限らず、使う人のこだわりとか、モラルの問題とかになっていくのかなと。

作業効率の向上と個性や能力を磨くことのバランス

AW: ベジェ曲線で自由に絵を拡大縮小できるだけでなく、例えばOKが出ている絵を下のレイヤーに敷いて参考にして描くみたいな作業効率のアップとか絵柄の統一への活用などはされていますか。

HK: 『ポケットモンスター』のキャラクターが炎を吹いている技のシーンで、炎の部分だけ違うパターンを描いてもらって、炎だけ差し替えて1つの絵を完成させたケースや、「ちょっとこの絵にこのキャラクター足したら1つの画面になるよね」っていうケースで、デジタルならではの作業の効率化は実際に行っています。

SM: 単純に素材を模倣する感じで使うということであれば、おそらく生産性は上がると思いますが、さきほど話題になったように、便利な機能に頼ってしまうと、個々のアニメーターの絵描きとしての根本的な画力が上がらなくなってしまうので、大切なのは使い方や意識の持ち方かなと思います。もちろん、クオリティーを上げるためにソフトウェアの便利な機能を使うのは良いことですが、それが当たり前になり、その機能が無いと描けないとなってしまうと、ソフトウェアを使わずに描かなきゃいけない場合とか、自分の個性を出した絵を描かなきゃいけないケースで、力や才能を発揮できないリスクがあると思います。

AW: ソフトウェアに頼り過ぎてしまった際のリスクを常に念頭に置いてということですね。

SM: そこら辺は紙にこだわっている方達が危惧しているところの1つでもあります。デジタルだろうが紙だろうが、やっぱり画材の1つですから、それをどう使っていくかが大切です。クリエーターとして、どうやって良い作品を作るか、どうやって自分の技術を上げていくかですよね。

作業効率と言えば、実は動画の作画に関しては、単純な作業枚数では、まだ紙の方が生産性を上げることができるんですよ。でも一方で、その次の着彩のステップは、現状では紙の絵をスキャンする工程を経てコンピュータで色を塗るのですが、弊社は社内に仕上げの部署がないので、他社にスキャンと仕上げの工程をお願いしているので、移動も含めてそれなりの時間がかかっています。だから、動画の作画から着彩までをコンピュータ上で1人でできるのはデジタル作画の効率面での強みと言えますね (図3)

図3:Toon Boomだけですべてのワークフローをカバー

Tatsuo Yotsukura (TY): 一方で、デジタルならではの問題点として、やり過ぎ、作り込み過ぎのリスクがありますね。

HK: そうですね。例えば、本来だと分業でAfter Effectチームに作業をバトンタッチしてしまえばノウハウと経験値で3時間で完成する撮影作業を、アニメーターが引き続きToon Boom Harmonyで1カ月近く撮影作業をこだわり抜いてしまうなんてことも起こりえますからね。全部の制作工程が1つのソフトウェアに機能として搭載されていますから、まあ極端な話ですけど、原画担当のアニメーターが撮影の領域、カメラの設定まで行えるというか、3DCGのアニメーションだと1つのシーンを1人の人間で作ることができるのと近しいことが、2Dアニメーション制作でも実現できる。でも、日本のアニメーション業界の大量生産を可能にしている理由の1つが効率化に特化した分業制なので、デジタル作画の導入によってアニメーターの作業領域が増えてしまうことによって、日本のアニメーション業界の場合は逆に生産力が落ちてしまう可能性があり、デジタル作画では作業の線引きやルールを考えていかないといけないと思っています。

Toon Boom Harmonyの便利な機能

SM: 作業効率に関連して、ちょっとToon Boom Harmonyの便利な作画作業についてお話しますと、鉛筆ツールで線を引いて輪郭編集を選ぶとコントロールポイントが出ます。後はコントロールポイントを押しっぱなしにしてベジェハンドルを使って変形できます。なので、人によっては、絵を描くというよりも線をのっけて変形させていると感じるみたいです。

AW: 絵を描いた後に修正がしやすいんですね。

SM: はい。それから、描いた後に、カッターツールで必要無い部分だけを簡単に消せます。他にも鉛筆の入りとか抜きの設定もできますし、線の太さも一回描いてしまえば、描いた元の線 (ベクター線) はそのままに、数字の設定を変えるだけで仕上がりサイズだけを拡大縮小できます。ブラシツールは、選択されている内側に線が表示される仕組みになっています。ブラシツールだと作画する人ごとの個性が出てしまうので、動画作業では鉛筆ツールでクリンナップしています。線自体の色を後から変えるのも簡単にできますし、撮影の段階で色トレス線だけを消すこともできます。

物理的距離の壁を超えた共同制作作業の実現

HK: 効率と言えば、Toon Boom Harmonyで制作するメリットとして、海外の方々とクラウドベースで仕事をする可能性が出てくるかもしれないですね。

SM: 中国や韓国、そして欧米からも、「日本のアニメーションが好きで日本のアニメーションが作りたいです」って来られる方がいますが、でも、画力があってもビザの問題とか給与面とかの問題で、「すみません」って断ることが多いんです。でも、そういった方達が自分の国にいながらクラウド上で仕事のやりとりができれば、打ち合わせだって日本語か英語が理解できればSkypeとか可能ですし、お互いにとって住んでいる場所に関係なく仕事ができるようになるという利点はあると思います。

日本のスタジオとしても、国内の方も海外の方も一緒に働ける人材は皆ありがたいですし、お互い損することはないですからね。新たな方法で繋がって一緒に仕事ができて良い作品を作れたらいいですよね。Toon Boom Harmonyがそのツールになるのではないかなと。

TY: 実は、Toon Boom Harmonyを採用したのは世界規模で使われているソフトウェアだというところもあります。我々も、海外のお仕事を頂けると海外のノウハウを吸収できますから。基本的に海外のアニメーションの制作方法で多いのは、パペット(カットアウト)方式と言いますか、2Dのキャラクターにリグ (rig) を入れて関節を入れて動かす方法が多いと思うのですが、日本の2Dデジタルアニメーションだとパペット方式で制作するケースはほぼないですからね。パペット方式は、日本だとFlashでアニメーションを制作している人にしかできないようなことで、どちらかというと3Dのアニメーターの方が得意でしょうし、そういうノウハウを海外から取り入れることができると、また新しい絵を作れるのではないかなと。

HK: 我々は、海外との共同制作となるとフル3DCGアニメーションとかライブアクションは時々ありますけど、2Dアニメーションとなるとほとんどなくて、まあ、合作という形でならありますが、「ちょいとこのカットを手伝います」みたいな感じです。でも、フリーランスのアニメーターで日本語が堪能な方でしたら、Skypeで打ち合わせをしてコミュニケーションが取れますから、今ここで打ち合わせをして、「じゃあ、今週この作業お願いします」と話して、後日データで絵を受け取るみたいな感じでお仕事をすることも可能かもしれませんよね。

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TY: 大規模プロジェクトでも、海外のチームを管理する方が日本語を話せれば、実は後ろにいる方達が何語でコミュニケーションを取っていても別に問題無いですからね。

SM: 実際、日本と海外だけに限らず、日本国内でも地方の方でアニメーターやりたいけれども東京出て来るのが大変だっていう人もいるし、実家の都合で東京から地方に戻んなきゃいけないっていうアニメーターの方も少なからずいます。でも、どうしても地方に戻っちゃうとアニメーションの仕事ってなかなか続けられないこともあります。また、現場では原画や動画などの紙の素材を動かすのは時間がかかるので、作業が進んだ段階のチェックで修正指示が発生して、でも手元に素材が無い場合、素材が来るまで待たなきゃいけない、結果、待機時間=時間のロスになってしまう。だから、デジタル作画になって物理的な物の動きが必要無くなり、ネット環境さえ整っていればすぐにデータを送ってもらってそれを直接作業できるようになれば、東京からの距離が働くうえで問題じゃなくなりますよね。

コスト面

AW: 少し話が変わりますが、今後、色々な規模の日本国内のスタジオが導入を検討される際のご参考に、デジタル作画の導入にあたってのコスト面について可能な範囲でお話を聞かせて下さい。現状でペイできる見通しはあるのでしょうか、まだまだコストの方がかかってしまうのでしょうか。

HK: まだまだだと思います。今回のチャレンジは、「コスト」、「作品のクオリティー」、そして「技術とノウハウの蓄積」の3つのバランスが重要ですが、デジタル作画のみで採算が取れるようになるのは、日本のアニメーション業界はまだ厳しいのかな。「コスト」に 関しては、より多くのスタジオが求めてくれたら機材やソフトウェアの値段とかそういったところはプライスダウンしていくと思っていますが、今の段階でそこまで期待するのは、まだ少し難しいですかね。

日本では、エンドユーザーやクライアントが「デジタルで作画して」と求めているわけではないので、我々が何を使って映像を制作しようが、テレビやインターネット上のプラットフォームなど色々な媒体でオンエアする最終的な映像がセルルックなアニメーションであるということには変わりはないんですよ。そうなると、我々に求められるのは、「なぜ導入するか」という判断時に、まず「コスト」の損益分岐のところで、次に何を優先するかです。今は2Dのテレビアニメーションの中で部分的に3DCG映像を使うのが当たり前になっている、だから、次はToon Boom Harmonyなどでデジタル作画するのが当たり前になることをイメージしていますし、そのイメージは導入の判断材料になりますね。アナログからデジタルというのはすべての産業で起こり得ることだと思っているので。なので、我々は、少し先行投資をして会社として新しく1つの武器を持つことを優先した。もうそこに尽きると思います。

3DCGと2DCGの融合

HK: 「作品のクオリティー」と「技術とノウハウの蓄積」に関しては、我々は、Toon Boom Harmonyの導入によって紙をデジタルに置き換えるだけではなく、紙では表現できなかったこと、デジタルならではの表現の獲得にチャレンジしていきます。先程少し出ましたけど3DCGとの融合もそうですね。Toon Boom Harmonyは、3DCG制作ソフトウェアのAutodesk社のMayaと非常に親和性が高いので、そういったところにも次のフェーズではチャレンジしていきたいと思っています。

TY: 私も3DCGとの連携に注目しています。今は、紙で描いたものに3DCG映像を合わせていて、目合わせみたいな感じで3DCGを2Dにはめ込んでいますが、3次元のカメラワークの情報をToon Boom Harmonyでも出力できればMayaでインポート、再現できますからね。

HK: 双方向でカメラワークやアクションを調整できれば、今までに見たことのない映像を作れると思うんですよね。例えば、私は、今は2Dのテレビアニメーションでも当たり前になっている、キャラクターの足下だとか不思議な所にカメラを置いて、そこから3DCGの背景を活かしてカメラ位置を回転させて、キャラクターが後ろから出てくるみたいな演出を、『スチームボーイ』(2004) で初めて見た時はすごく驚きました。「3DCGの技術を使うとこんなに動くんだ」みたいな。今度は、我々が2Dデジタルならでは斬新な映像で視聴者をびっくりさせたいなと。

社内環境の整備

AW: デジタル作画の導入には、新規にコンピュータやソフトウェアを用意する必要があるわけですが、そこのところについて少しお話を聞かせて頂けますか。

HK: 私のチームはアニメを作る専門家集団ですけど、機械に関してはまったくの素人なので、R&D部門にお願いして、作画作業しやすい環境にするためのコンピュータの選定から、この部屋のレイアウトまで全部相談しました。例えば、「配線は床の下に通した方がいいよ」と言うので、床を上げたりとか。普通に考えたら、我々だけだったら、もう机並べてコンピュータを置いて有線で繋げて、それはもう雑然とした空間が、今頃ここにあったと思います。

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TY: そうですね。一般的に日本のアニメーションプロダクションって、R&D部門とかシステム部門があるところは少ないでしょうし、日本でデジタル作画が少しずつ普及してくるとなると、そこが問題になりますよね。

AW: 設備がかなり充実されていますが、コストはどれ位かかりましたか。

HK: 1人につき全部揃えて50万円位でしょうか、モニターに10万、コンピュータに15万、ソフトウェアのライセンスで30万みたいな感じです。

SM: 紙で作業されていたアニメーターの方達がデジタル作画に移行した際に手描きの違和感が無いように、13インチと20インチの液晶タブレット(Wacom社のCintiq)に板タブ(Wacom社のIntuos)も用意しました。そして、個々人に実際に絵を描いて使ってもらい、「合った物を選んでください」という感じで決めています。どちらかというと20インチの液晶タブレットは色味が若干違って見えるのと、13インチの液晶タブレットはモニター上のアイコンとペンとの距離が結構狭いので、紙からの移行の人は13インチを使っている人が多いですね。他にも3種類の画面保護シートと5種類位のペン先を用意して、社内の作画のスタッフ20人程にお願いして、どれが一番紙の描き心地に近いのか試したりもしましたね。

AW: 鉛筆で紙に描く際の独特の引っかかりに近い感触が好まれるのでしょうか。

SM: Toon Boom Harmonyでベクター線で描く時には、輪郭編集とか使うので、モニター上でペンが滑る方がいいと言う人もいますので人それぞれですね。

AW: オフィス環境として紙で描いていた時と、今のこの環境ってどうですか。

SM: ここは2人並んで歩ける位のスペースがありますが (写真5、6)、紙で作画している部屋は狭くて、1人でも結構きつく感じる位の密集地になっていますよ (写真7、8)

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写真5: デジタル制作チームの作業風景

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写真6: デジタル制作チームの作業風景

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写真7:紙に作画しているチームの作業風景

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写真8:紙に作画しているチームの作業風景

今後の課題

AW: 今後についてお聞かせ下さい。

HK: 今回のデジタル作画の導入は、ある程度の規模があり、R&D部門のようなシステムのチームもいる弊社にマッチングしていたなあと思っています。プロジェクト開始時に小川と室岡の2人を口説いて、「1年経ったら自分達の部屋を作ろうよ」と言ってスタートしたのが、実際に来月にこの部屋がメンバーで埋まり、部屋を拡張して、『ポケットモンスター』のデジタル作画の割合を増やしていくところまで来れました。でも、まだまだ、我々の会社でもデジタル作画に従事している人間は10パーセント未満で、残りの社内スタッフはまだ紙で作画しています。正確な数字は分かりませんが、デジタル作画のみで仕事されている方は日本の2Dアニメーション業界全体で1%とかの可能性もあると思います。今後、変わってくるとは思いますし、そこに新しいフロンティアがあればと。

TY: アニメーターとしてはどうですか。

SM: 例えば原画であれば3DCGで背景を作り、そこにキャラクターを置いたりとかできますが、それは便利な反面、色々なソフトウェアを使えることが前提になります。今までだとパースがちゃんと取れてデッサン力があれば、後は紙に描くだけで良かったことが、デジタル作画での生産性向上のために今までやらなくても良かったことや、知らなくて問題無かったことをスキルとして身に付けなければいけません。それを是とするか非とするかで多分また将来が変わるのかなと。アニメーターとしての付加価値もそれで当然変わってくると思います。

HK: 現在、『ポケットモンスター』のテレビシリーズで少しずつ2Dのデジタル作画のシーンが混ざり始めていて、さっき見て頂いたのはラストの55秒のミニコーナーのシーンですが、他にもエンディングであったりとか、そういったところに徐々にデジタル作画の映像が入って来ています。それは3DCGの使用が2Dアニメーションに浸透していったのと一緒です。最初は1本のテレビ30分の中に5カット入る感じだったのが、今は300カット中100カットでCGを使っていますみたいなこともある。だから、我々は、このプロジェクトが成長していくことによって、30分1本を2Dデジタルで作れるようになるところを目標にしています。もちろん向き不向きもあると思うので全部が全部デジタル作画である必要はないですが、でもより良いフィルムを作るためにどんどん増えていくのはありなんじゃないかなと。

SM: 実際に紙の素材が絶対に無くなるということは無く、紙とデジタルが共存していくことが必要になってくると思うのですが、じゃあ、「紙がデジタルに合わせろ」なのか、「デジタルが紙に合わせろ」なのかっていう、そこら辺のバランスも考えていかないといけないと思います。今は基本的にはフルデジタルで作業していますが、シーンによっては原画まで紙で作業して、原画をスキャンしてToon Boom上で動画を仕上げるケースもありますし、実際に小川もそうしていることがあります。だから、我々は「デジタルだけとか紙だけとかじゃなくて、どっちにも対応できますよ」というスタンスで進めています。

HK: 最終的に作品を観る視聴者は、作り方には興味は無いでしょうし、興味があるとしても、そこが評価に直結するわけではないので、映像の作り手としては本当に便利な方を取るだけですね。便利さという点では、デジタル作画はたくさん持っているし、紙に勝っている部分もあります。だから私は「デジタル作画をやりましょう」ってアニメーターさんを口説けるわけです。

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[第1回]

写真:田中 彩

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